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牛乳石鹸のWEBムービーについて 

 この牛乳石鹸の広告動画が、一部で非難を浴びているらしい。「意味不明」という意見すらあるらしい。
 私は今日になって実物を初めて見たが、正直な感想として、非難を浴びるいわれは全く感じなかった。むしろ、短い中にメッセージの込められた良い作品だと思う。

 


 36秒。主人公(以下「お父さん」と呼ぶ)の後輩が上司に叱られている。
 43秒。お父さんは別の後輩から書類のチェックを頼まれている。寡黙に受け取るお父さん。頼られているようだ。
 51秒。「あの頃の親父とは、かけ離れた自分がいる。家族想いの優しいパパ」「でも、それって正しいのか」
 51秒。どこかへ出掛けていく誰かの後姿の回想。
 53秒。一人で壁に向かってボールを投げている少年の回想。
 1分11秒。息子へのプレゼントを買って帰路につくお父さんは何かを見付ける。
 1分14秒。お父さんは誰かと居酒屋に入り、失敗を慰めている。その相手は、昼間に上司から怒られていた後輩だった。
 1分18秒。お父さんの電話が鳴るが、悩んだ末に出ない。
 1分40秒。帰宅しお母さんに責められる。お父さんは何も言わない。
 1分55秒。「親父が与えてくれたもの、俺は与えられているのかなあ」



 この作品のポイントは二つあると思う。
 
 まず一つは、お父さんが飲みに行っている相手は昼間に怒られていた後輩であるという点だ。ここに気付かないと、確かにこのムービーの意味はわからないかもしれない。
 このお父さんはこの後輩の直接の上司ではない。本来、必ずしも彼を励まさなければならない立場にはない。だけど、帰り道にこの後輩の姿に気付いてしまったのだ。

 普通の「家族想いの優しいパパ」であれば、この日にこの後輩のことを気にかけたりしないかもしれない。だけど、それはつまり、「ただの会社の後輩」が落ち込んでいようが放っておけばいいという考えだ。家族を想い優先する、つまりは、後輩のことはあまり優先しない、そういうのが「優しいパパ」ということなのだろうか。



 もう一つのポイントが、壁に向かってボール投げをしている子供の光景だ。これも確かに少しわかりにくいかもしれないが、色彩が若干セピア色を帯びており、回想であることが読み取れる。それはおそらく、このお父さん自身の記憶だろう。

 ボール投げをする少年の表情は厳しい。楽しさよりも孤独を感じさせる。おそらく、そういうことだったのだろう。だからこそ、このお父さんは、自分の父親を反面教師的に、「優しいパパ」を目指してきたのではないか。

 だけど、彼は今になって思う。「それって正しいのか」と。
 あの時、自分を放っておいた父親は何をしていたのだろう。好き勝手に遊び歩いていたのだろうか。・・・そこにお父さんは気付いてしまったのだ。父親はただ家族を放っておいたのではなくて、他の誰かのために何かをしていたのではないかと。

 「親父が与えてくれたもの、俺は与えられているのかなあ」という呟き。
 家族に対して優しい、それはもちろん良いことだ。では、家族にだけ優しければよいのか。・・・決してそうではないだろう。他にも大切な人は居る。そういう人が大変な時に励ましてあげられることの方が、むしろ大事だったのではないか。記憶の中の自分の父親の姿を、お父さんは改めて捉え直す。

 だから、最後のコピーはこうなる。
 「さ、洗い流そ」

 洗い流す対象は何か。もちろん、父親へのわだかまりだ。



 こう書いてみると、このムービーは非常に良く出来ていると思う。この一連の流れを、短い時間の中で見事に描き上げていると思う。

 確かに、ちょっとわかりにくい面はある。書類のチェックを頼むもう一人の後輩を登場させたのは人間関係を少し混乱させたし、帰路にお父さんが見付けたものを映していないこともある。それはおそらく、落ち込んだ様子の後輩の表情だったはずなのだが。

 しかし、この作品で「説明」をしては何の意味もない。
 そもそもお父さんは寡黙なのである。そして、お父さんの父親も寡黙だったのである。「自分はこんなにも他人を思いやってるんだぜ」と軽々しく口にするような人達ではないのだ。だからこそ、子供時代のお父さんには伝わりにくかったのだし、お母さんも今すぐは理解してくれないかもしれない。「そこ」をまさに描いているのではないか。


 
 あと、「家族は何よりも大事」だという先入観が強いと、今作を見誤る可能性がある。
 
 元々、それを否定する(必ずしも肯定しない)方向性のメッセージだと思う。息子が誕生日だから同僚がどうなっていてもすぐに帰りますよ、ということに違和感を抱かない人にとっては、確かに、まず「意味がわからない」だろうし、そのメッセージ自体を肯定的に捉えられないかもしれない。

 だけど、思い返して欲しい。この間までのお父さんもそうだったのである。「家族を第一」に考えていたのである。だけど、繰り返すが「でも、それって正しいのか」自体が今作のメッセージなのだ。
 むしろ、初見で違和感を抱いた人にこそ、伝わって欲しいムービーなのだと思う。


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