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『明日の君と逢うために』 (PurpleSoftware)・発売10周年 

 私はエロゲを他の創作物と比べて良くも悪くも差別していない。だから、他のジャンルと同じように、「自分の考え方に大きな影響を与えた作品」というのが存在する。その中でも、今作は私に最も大きな影響を与えた作品かもしれない。



 参考:『明日の君と逢うために』 感想・現時点版



 私がこの作品の中に観たものを一言で言うと、「別れ」「孤独」だ。

 上記の作品感想にも書いたが、今作の恋愛描写は非常に良く出来ており、普段あまり恋愛モノを評価しない傾向にある私の中でも、トップクラスの描写だと思っている。にもかかわらず、この作品は人と人の「別れ」をも常に描いている。その中でも特に、最後に登場した泉水咲という人物の姿があまりに強力過ぎた。

 (ただし、これも重ねて強調すべきだろうが、本作が果たしてどこまで泉水咲の描写に主眼を置いて作られていたのかはわからない。実際、泉水咲は今作におけるいわゆる「攻略ヒロイン」ではない(彼女の人間性でそうなることはあり得ないのだが)し、物語としては別の方向性でちゃんと締められている。私が観た部分が、制作者の意図とは大きく異なる可能性もある。以下、その前提で。)


「君は、無いの?」
「もっと、ずっと遠い世界へ行ってしまいたいと思ったことは?」

 泉水咲のこの台詞に何も感じなければよかった。実際、今作の主人公はこの咲の言葉を理解しない(できない)。でも、私は彼女の側に立ってしまった。今の自分の頭の中にあるものが必ずしもこの世の究極の姿ではないことを悟ってしまった、とでも言おうか。

「どうしてかしらね」
「深い理由なんて一つもなかったのかも」
「すぐそばに、見たことのない別の世界があって、そこに行けるとしたら――そう考えたら、自然と森に向かってた……」

 泉水咲はこうやってまたさらに追い打ちをかける。
 彼女は「向こうの世界」に具体的な何かがあった(見ていた)わけではない。「理由がない」とはつまり、「理由なんて要らない」ということだ。彼女には、ただ「こちらの世界」に満足できているわけではないという漠然とした想いがあり、そのことに気が付いてしまった。
 泉水咲にとってのりんとの出逢い、すなわち「向こう」の世界が存在する可能性を知ったことは、確かに泉水咲の背中を押したのだろう。それは、私にとっての今作とリンクする。私だって、今作を読む前はそれを意識したことはなかった。自分の頭の中で想像できるものが全部揃えば、それは自分にとって最高の満足になるんだと漠然と思っていた。

 私は今作を単なる「お話」として消化することが出来ない。というのも、今作の残酷な構成として、神様であったりんの手による「向こう」への旅立ちは、単なる比喩でしかないからだ。
 冒頭に、里佳の祖母が怪我を契機に学園の運営を全て放り出し、「自分は死んだものと思え」と言い残して旅立ってしまうシーンがある。これは実際のところ泉水咲の行動と何も変わらない。「ここではないどこか」へ行くことは、実はそれほど困難なわけではない。泉水咲は、高校を卒業したら、もう御風島には戻って来なかったのではないか。俺達は、今まさに、そうしているのではないか。

「一度離れたら二度と会えなくなった人がいる――そんなのは、当たり前になってるのよ」

 里佳のこの台詞は、今だからこそ尚更実感できる。

 今の私はあの頃の私ではない。目指す世界は月日と共に変わっていく。むしろ「変わらなければいけない」というか、本来「変わるのが望ましい」のだと思う。
 その時に置き去りにされるものは必ず発生する。泉水咲にとっての泉水小夜、御風里佳がそうだったように。泉水咲の選択はあまりに残酷で、同時に、紛れもなく正しい。

 今作はたぶん私を少し残酷にした。
 私は元からドライな人間のつもりだったけど、それでも、今作を読むまでは、誰かを置いて去ることを「是」と考えてはいなかった。実際、先に書いた通り、今作は基本的に「残される側」の視点から描かれており、その辛さというのも容易に想像できる。でも、今作を読んでからは、「別れ」とは人が生きる上での必然なのではないかと考えるようになった。

 人はいつか別れる。単なる喧嘩やどちらかの非とかそういうものではなく、まともに生きていくことで「変化」を生み、それは何かとの「別れ」に繋がる。それが、前に進むということなのではないかと。だからこそ、その行き着く先は孤独なのかもしれない。「永遠の否定」は物語でよく使われる題材だが、私は初めてそれを「実感」したのだと思う。
 とはいえ、私の中で、それを肯定したかったのかというと決してそんなことはなかったのも事実なのだが。


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