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『応えろ生きてる星』(竹宮ゆゆこ) 

 

 個人的には、作品感想なんてものに「正しさ」という概念はなく、せいぜいが各人が好き勝手に色々なことを思ってそれを統計的に処理した結果が世間的評価になるだけだと思っています。
 しかし、以下に記す今作についての私の感想は特に、その裏付けとなる事実関係への確証がなく、憶測に憶測を重ねたものであることを予め記しておきます。


 今作は、誰に向かって書かれた作品なのでしょう。あるいは、何を念頭に描かれた作品なのでしょう。



 これまで読んだ竹宮氏の作品もそうでしたが、この人は主人公が男性か女性かで描き方が少し変わるような気がします。
 作者は女性だという先入観があるせいかもしれませんが、女性主人公の場合はまさに「自分」かのように描くのに対し、男性主人公の場合は少し「他人」としての視点が加わえられ、その分、若干の「優しさ」のようなものが含まれるように見えます。
 
 この作者は、とても厳しい人なのです。厳しさから逃げず、「これでいいや」という甘えを許さない。それが、女性主人公の方がよりストレートに出てくるように思えます。
 一方、今作は男性主人公の分、最初の流れはまず優しい。でも次第に、そして最後には結局、物事の核心を逃すことなく、これでもかと突いてきます。

朔「失敗なんてしてないし、なんにも間違ってなんかない。だって最初から自分では、なんにも選んでいないもの」

 「自分が傷ついた」という事実から逃れることすらも許してくれません。

 俺の胸に今も残り、見たくなくて目を逸らし、痛みは忘れたつもりで、でもまだ血を流す、この裂け目。これは死んだ星が落ちながら描いた軌跡の形だ。俺の宇宙の内側に癒されないまま残された、深い傷だ。
 この傷がついたときのことを――ずっと前に死んだ星のことを、ゆっくりと思い出す。というか多分本当は、忘れたことなんかただの一瞬もなかったのかもしれない。俺はずっと、毎秒毎秒、新しい血を流していたのかもしれない。

 清水さんとのやり取りは真骨頂かと。

「清水さんは、どうして……どうして俺を、見捨てたんですかね……? 清水さんは、いつ、俺には才能がないって、……俺を見限ったんですか?」
 まるが欲しかった。
 清水さんがネームにぐるっとつけてくれるまるは、『進め!』の印だった。まだまだ、まだまだ、と。満タンに貯めた俺のエネルギーを一気に放出する合図だった。その合図で勢いよく迸って、俺は宇宙の彼方へと打ち出された。そうやって俺は生きているということを、俺が俺だということを、心の底から喜べた。
「……あなたにとって、俺は……ゴミですか?」

 清水さんは、出版社を退職した今もなお廉次を気にかけてくれる優しい人です。でも、その人に次の台詞を言わせるからこそ意味がある。それと「向き合わない」ことをこの作者は許しません。

「あのさあ」
「五年だぜ?」
「やっと気づいたのかよ? おっせえんだよな。ずっとろくに考えもしなかったんだろう? 要するに、それが、才能がないってことなんだよ」
「はっきり言って、廉次くんはボンボンなのが運の尽きだわ。甘えられる環境にスポイルされたってのは絶対あると思うよ」
「ゴミっつうか、まあ半端だったよな。作家としての廉次くんは。自分の足だけじゃ全然ふんばれなかったもんな。でもなにかふにゃっと抗いがたい魅力があって、俺は廉次くんに賭けちゃったんだよな。一緒にやっていきてえな、そうしたらどこかに辿り着けるかなって。大事なものを預けてみたいって思っちゃったんだよな。それくらいの重さがこいつにはあった方がいいだろうってさ。でも、廉次くんには重すぎたんだなあ。耐えられなかったんだよなあ」
「遅かれ早かれ、廉次くんは絶対に、半端なところで潰れただろうね。確実に」

 その上で進むべき道を今作は示していきます。

 無限の宇宙から降り注ぐ星の下、広大な海の真ん中にぽつんと取り残され、俺は自分自身の小さな輪郭を感じた。この手に握り締めた残念さも、そして俺より先に落ちていった星が深々と残した軌跡も、すべてが俺。
 すべてが、俺なのだ。
 俺の一部を失敗作なんて呼んで、バツをつけることももうしなくていい。なにも隠さなくていい。なにも捨てなくていい。なにかを消してしまいたいとも、忘れたいとも思わない。あの頃とは違う日々を、俺は今、生きている。新しい日々を生きている自分自身を、許すことができる。きつく締めていた蓋を開け放って、心の底から、やっと自由になれた気がした。
 俺は生きている。これからも生きていく。これが俺だし、これでいいのだ。




 さて、ここから私が書く内容は完全に憶測と不確実な情報(噂話レベル)交じりのものです。その前提でお読みください。

 この竹宮ゆゆこという人はあまり自分語りをしませんが、この人の旦那さんはとある作家さんだという噂がありました。
 (注:その噂が真実かどうかはわかりません。かつて同じ職場で一緒に仕事をしていたことは事実ですが。)

 そのことを考えると、今作の印象は少し変わってきます。というのも、彼の作品(連載途中でした)が出版されなくなってからしばらく経つからです。元々、この人は小説家というよりもシナリオライターで、そこでも企画した作品が未完(制作中止)となっていたことは広く知られています。今作で描かれた廉次の過去は、かなりの部分で彼にリンクするような気がするのです(廉次の作品は成人向けでした)。

 「応えろ生きてる星」というタイトルは、果たして「誰」に向けられたものなのでしょうか。
 憶測の域を出ませんが……もし「彼」に向けられたものであれば、それはあまりにも強烈なメッセージ。

 でも、今作の中では、廉次の作家としての至らなさを描きつつ、廉次の作品の魅力を否定してはいないのも事実です。

清水さん「でも俺はね、廉次くんのタッチ、線、塗り方とか、もう全部、本当に大好きだよ。愛してるね。かすれさえ、汚れさえ、心から俺は愛してる。今もだぜ?」

 この台詞、展開上必要ないじゃないですか。廉次はマンガを描くことを続けはしないのだから、その作品の質がどうだったかは物語の筋にあまり関係ありません(むしろ、彼のマンガ家としての可能性を一度否定したのだから、改めて持ち上げる必要性もないかと思う)。じゃあなぜ付け加えられたのか。「誰に向けて」書かれたものなのかと思うと……ねえ。

 そして最後に、その「彼」が、今作の発売についての出版社のツイート(発売前のもの)をRTしていたことを書き添えておきます。


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